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韓流歴史紀行〈10〉チュアム海岸のサーチライト

文と写真・康 熙奉(カン ヒボン)

  朝鮮半島の東海岸に位置する三陟(サムチョク)市にあるのがチュアム(湫岩)海岸だ。海岸線が美しいことでよく知られていて、これまでに数多くのドラマでロケに使われてきた。特に有名なのが『冬のソナタ』だ。

 

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チュアム海岸は岩場の風景が圧巻だ

美しい白浜

 チュアム海岸が登場するのは『冬のソナタ』の第18話だ。別れを決意したチュンサンがユジンを誘って海に行く。最後の思い出づくりの場所がチュアム海岸だった。映像で見たとき、海から岩場が突き出ている風景が圧巻だった。

 そのチュアム海岸に二度行ったことがある。

 最初は2003年10月だった。江陵(カンヌン)から三陟まで50分ほどバスに乗り、バスターミナルでタクシーに乗り換えてチュアム海岸に向かった。

 タクシーの運転手さんがしきりに自慢していた。

 

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この海岸はいつもカモメが多いという

 

「チュアム海岸は水がすごくきれいだし景色もいいから、大勢の観光客が来ますよ。まあ、韓国でも一、二を争うほどの海水浴場ですね」

「だから『冬のソナタ』のロケ地に選ばれたんですね」

「もともと夏だけでなく冬にも恋人たちがよく来ていますよ。とにかく、岩場の造形美が凄いですからね」

 運転手さんの話を聞いているうちに10分で到着。海辺には民宿や土産物屋が立ち並び、砂浜ではズラリとイカが日干しにされていた。

  海岸の風景は、間違いなく『冬のソナタ』で見たものと同じだった。

 美しい白浜が続き、カモメがひっきりなしに飛んでいる。特にカモメが多い場所には、海から三角型の岩がいくつも突き出ていた。

 

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岩場が海から突き出ている

 

 ドラマでは、チュンサンとユジンが白浜を走って戯れる。ユジンは幸せの絶頂にあったが、チュンサンはすでに別れを決意していた。しかし、ユジンは知らない。それだけに、彼女がはしゃぐ姿が痛々しかった。

チュアム海岸の民宿

 ドラマから現実に戻って視線を左に移すと、岩場の先に見覚えのある民宿が見えてきた。例の、チュンサンとユジンが泊まった民宿だった。

 近づいて行くと、民宿の前でアジュンマ(おばさん)がイカを干していた。挨拶したあとに、『冬のソナタ』で使われたことを持ち出したが、なぜか彼女はあまり機嫌がよくなかった。

「ドラマで放送されてから、いろんな人が訪ねてきて『民宿の写真を撮らせてくれ』『部屋を見せてくれ』と言ってきて、もう大変なんですよ。その度に手間がかかって苦労するばかり。撮影のときだって謝礼を20万ウォン(約2万円)しかもらってなくて、それでいろいろと便宜をはかってあげたのに……」

 ボヤキが止まらなかった。

 そのときは、次の取材予定があって長居ができなかった。

 

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この民宿は『冬のソナタ』でおなじみだ

 

 再び訪ねたのは1年半後だった。2005年の春である。

 宿泊することを告げると、例のアジュンマは機嫌が良かった。

 部屋はどれも狭かった。『冬のソナタ』でチュンサンとユジンが泊まった部屋は別の場所で撮影したようだ。

砂浜の兵士たち

 狭いオンドルの部屋で寝ころびながら心地よい潮騒を聞いたあと、海沿いの食堂で刺し身を食べ、暗くなってからも海岸で焼酎を飲んだ。

 いつのまにか寝入ってしまった。

 けたたましい笛の音で目が覚めた。

 音がする方向に顔を向けると、暗闇の中から徐々に見えてきた……激しい息づかいの犬を連れた2人の兵士の姿が……。

 屈強な兵士たちは機関銃を携えており、大きな犬がやたらと鼻面をこちらに近づけてきた。酔っていたせいか、すぐに現実がわからなかったが、兵士に大きな声で詰問されて一気に恐怖が押し寄せてきた。

「この海岸は夜間に入ることはできない。ここで何をしているのか」

 そう尋ねられて、いま自分が置かれている立場をようやく理解した。要するに、北朝鮮のスパイを防ぐ目的で、チュアム海岸は夜間の立ち入りを禁止しているのだった。

 それも知らずに、呑気に海岸で焼酎を飲んでいたというわけだ。

 一気に酔いが覚めた。あとは、平謝りして勘弁してもらった。

 

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細い橋をユジンが走って渡って行く場面を思い出す

 

 民宿に戻り、海岸に向いた縁台に腰掛けて、焼酎の続きをした。緑黄色のサーチライトがしきりに海岸を照らしている。その光はスパイを捜し出すためのものなのだが、幻想的でドラマの一場面のようにも思えた。

 あれから15年……いまでも、あのサーチライトは海岸を照らしているのだろうか。

 

 

*筆者・康 熙奉のプロフィール&近況はtwitterをご覧ください→https://twitter.com/kanghibong

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週木曜日)予定です。次回もお楽しみに!

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