「わぁ……、素敵!」
インタビューの部屋にチェ・ジウさんが登場すると、取材陣一同からどよめきが起きました。
日本で「韓流ブーム」を巻き起こした『冬のソナタ』から21年。ジウ姫ことチェ・ジウさんが、新作映画をひっさげて来日しました。7年ぶりのスクリーン復帰作で挑んだのは、Kホラーの巨匠と言われるチョン・ボクシム監督が手がける『ニューノーマル』。孤独な現代社会に生きる人々の日常に潜む恐怖をあぶりだす新時代の体験型スリラーで、新たな一面を披露しています。結婚・出産を経て人生でも新境地を開いたチェ・ジウさんに、インタビュー。映画とご自身の「ニューノーマル(新しい生活)」、そして韓流ブームについて聞きました。
チェ・ジウ(Choi Ji-woo)
1975年6月11日生まれ 。ドラマ『冬のソナタ』や『天国の階段』などで韓流のトップスターとして愛され、韓流ブームに貢献した韓国を代表する俳優だ。確かな演技力と洗練されつつも気品のあるイメージで、〈ドラマの女王〉〈メロドラマの女王〉という称号を得、長い間大衆の信頼を得てきた。『ニューノーマル』では、笑うことのできない女性“ヒョンジョン"役に挑戦し、今までにない冷たく冷ややかなイメージの中に意外なエネルギーを秘め、新たな一面を披露している。
一番怖い存在といえば、昔は幽霊やお化けだったかもしれないけれど、今は人間かもしれない
――チョン・ボムシク監督は、ヒョンジョン役は「この人がこんな役をやるなんて」という意外性を求めてチェ・ジウさんにオファーをしたと伺いました。とてもチャレンジングな役だと思いますが、引き受けることにした理由を教えてください。
最初オファーをいただいた時には、「いままでやったことがないキャラクターだけど、どうしよう」と悩みました。果たして自分にできるかなって。実は、「ちょっとできません」とお断りをしたんです。でも、監督はわたしにどうしてもやってほしいと思っていらっしゃったそうです。「どうして、よりによってわたしなんだろう」とずっと気になっていたのですが、監督は、「あなたの中に新しい姿を発見して、それを引き出したいのだ」と。
また、シナリオがすごくおもしろかったんです。最近は思いもよらないようなニュースが起きていて、特に意外だなと思わせるようなニュースに接すると、恐怖を覚えますよね。一番怖い存在といえば、昔は幽霊やお化けだったかもしれないけれど、今は人間かもしれない。そんな身近な恐怖を描いた作品です。ただ怖いだけではなく、ウィットもあるのが良いと思いました。
そして何よりも、過去にたくさんの人たちに愛されるホラー映画を撮ってきたチョン監督に対する信頼も大きかったです。だから、監督を信じて挑戦してみようという欲が生まれました。
――チェ・ジウさんが演じるヒョンジョンは、職業やどんな生活をしているかなどについて、作品の中ではまったく描かれていません。セリフも抑えた役で、演じるのは非常に難しかったのではないでしょうか。情報がない役をどのような人物だと想像して立体化させていったのか、教えてください。
たしかに最初、監督からも細かい説明はありませんでした。ヒョンジョンは一人暮らしで、口数も少ないですよね。でも、どこで何をしていて、どういう過程を経て今のヒョンジョンになったのかについては、映画の中でも語られていません。だから想像するしかありませんでした。そんななか、監督はわたしにキャラクターを理解するために、ある映画をおすすめしてくれたんです。1931年にドイツで製作された『M』という作品でした。『M』を観て、監督が望むヒョンジョン像を理解することができました。監督はその後、「こういうことがあり、こんな変化があって今に至っている」と、ご自身が想像するヒョンジョンの半生についても話してくれました。おそらくご覧になる方たちも、情報が少ない分、そんな風に想像してくださるのではないかと思います。
母親役を演じるのは、至極正常な流れだと思っているんです
――『ニューノーマル』は、大きな転機を経た「新しい形の生活」という意味ですが、チェ・ジウさんにとっては結婚・出産を経た今が「ニューノーマル」なのではないかと思います。Instagramでもお子さんの様子を紹介していますね。子育てと仕事を両立するために心がけていること、そのなかで幸せを感じていることについて教えてください。
子どもはいま、4歳になりました。どんどん大きくなっていく様子を見るのが、最近の一番の幸せです。もっと小さかった時には今以上に母親が必要だったため、育児に比重を置いていたけれど、言葉も話せる年齢になったので、母としてそして家庭でのわたしの役割プラス仕事のバランスをうまく取れるように努力をしています。これからも二兎を追いながら、自分自身の新しい姿を見せていきたいです。
――日本のドラマ『ブラックペアン シーズン2』(TBS系)にも出演し、母親役を演じて話題になっています。韓国ドラマ『流れ星』でもキム・ヨンデさんの母親の役でした。母親役が増えてきたことについて、どう感じていますか。また、今後挑戦したい役についても教えてください。
母親役を演じるのは、わたしは至極正常な流れだと思っているんです。自分自身、いま育児をしていますし、感情の幅が広がったような気がしています。俳優としては、いろいろな気持ちを感じることができるのは長所になるので、これからも役柄にこだわらずにやっていきたいです。もちろん母親役も今はできますし、自然の流れに身を任せてそれを受け入れる準備もできているんですね。
『ブラックペアン シーズン2』では、7月に東京で舞台挨拶に参加して、久しぶりに日本の皆さんとお会いしました。わたしのことを温かく迎えてくださるだろうか……と思っていたのですが、本当に歓迎していただき、とてもうれしかったです。韓国では出産を経ても休まずにずっと活動してきましたが、日本では久しぶりに公式にごあいさつをする機会だったから、心配もありました。日本の皆さんといえば、『冬のソナタ』のユジンの初々しい姿を記憶されていると思います。もうあれから20年も経って、わたしも年を重ねたので……。でも、本当に優しく迎えてくださったので、感謝しています。
――日本では『冬のソナタ』の放送を機に韓流ブームが起き、去年は「韓流20周年」として、日本各地でイベントが行われました。現在は韓国でも日本文化が注目されたり、日韓の文化交流もあったり、流行ではなくそれぞれのカルチャーをお互いに楽しむような状況になりました。韓流ブームのまさに主人公でいらっしゃったチェ・ジウさんは、この20年間の流れや現在の状況をどのようにご覧になっていますか。
『冬のソナタ』を通じて、想像もできないほどの大きな愛をいただきました。もちろん、それ以前からKコンテンツに対する関心はあったと思いますが、より関心を持つきっかけになったのが『冬のソナタ』でしたので、わたしとしてはこれぐらい、これぐらい(と両手で小さな円を作ってみせる)の寄与ができたとすれば、自負心も感じますし、意義深いことです。そして、いまは素敵なカッコいい後輩たちがたくさん出てきて、さらに活性化させて大きな役割を担ってくれています。そんな後輩たちに対しても、誇らしい気持ちでいっぱいです。
コロナ禍や結婚、妊娠、出産を経験して、感情の幅が広くなりました。今は一日一日を幸せに生活できるように努力をしています
――結婚、出産、コロナ禍を経て生まれた、チェ・ジウさんなりの「ニューノーマル」、つまり新しい考え方や生活スタイルとは。
コロナ禍や結婚、妊娠、出産を経験して、感情の幅が広くなりました。映画『ニューノーマル』の冒頭でニュースが出てくるのですが、あれは実際に起きた事件をもとに監督が編集をしたものなんです。最近は本当に恐ろしい出来事が起きています。そういうニュースを観るたびに、どうしてこんな世の中になったんだろう、怖いな……と思う気持ちがとても強くなりました。だから、今は一日一日を幸せに生活できるように努力をしています。広くなった感情の幅を演技に長所として生かして、多くの方たちに新しい私の姿を見ていただけることを期待しています。
――チェ・ジウさんを20年前に済州島で取材したことがあるのですが、映画を観て、そしてこうして実際にお会いして、変わらずみずみずしい姿に驚きました。自分らしくあるために続けていることはありますか。
そうですね、特別なことはないのですが……。とにかく何でも自然に受け入れるように努力しています。旅行も好きです。子どもと今いろいろな所に行ける時期なので、子どもにもたくさんの経験をさせてあげたいですし、わたし自身も体験を重ねていきたいと思っています。それから、おいしいものも大好きです。友だちとビールで一杯やるのも好きですし、こんなふうに仕事をした後に、スタッフの皆さんとビールを飲むのも、小さな幸せのひとつです(笑)。
<INFORMATION>
映画『ニューノーマル』
ソウルでは、女性ばかりを狙う連続殺人事件が多発し、世間を賑わせていた。ある日、マンションで一人暮らしをしているヒョンジョン(チェ・ジウ)の元に火災報知器の点検をしに来たという中年の男性が訪ねてくる。図々しく家の中に入ってくる怪しげな男性に不安を覚えるヒョンジョン。一方、デートアプリでマッチングした相手と待ち合わせをしているヒョンス(イ・ユミ)。しかし、そこに現れたのは思いも寄らない人物だった。交差する2つの出来事が予想だにしない結末を巻き起こす…。
監督・脚本:チョン・ボムシク『コンジアム』
出演:チェ・ジウ「冬のソナタ」、イ・ユミ「イカゲーム」、チェ・ミンホ(SHINee)「ザ・ファビュラス」、ピョ・ジフン(Block B)「ホテル・デルーナ」、ハ・ダイン、チョン・ドンウォン
新宿ピカデリーほか全国公開中
配給:AMGエンタテインメント
公式サイト:https://newnormal-movie.jp/